ski経営サポートオフィスの社労士コラム
【02:就業規則 】記事一覧
- 2013.11.16
- 就業規則を従業員に不利益に変更する場合
- 2013.10.27
- 就業規則の効力発生はいつ?
- 2012.02.15
- 就業規則作成の作成・届出は
就業規則を従業員に不利益に変更する場合
就業規則の不利益変更
就業規則は、使用者側が作成したり変更するものであることから、労働条件について従業員側に不利な変更をした場合は、その効力が問題となります。
労働基準法には就業規則の変更により労働条件が低下する場合についての記載は特になく、この問題について裁判例によっても見解が分かれています。
最高裁は、就業規則の変更に関して次のような考え方を示しています。
「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」(秋北バス事件)
この判決は、就業規則の条項が合理的なものである限り、労働条件に不利益な条項を設けても有効に適用されるという考え方を示したものです。
問題は「何が合理的なのか」ということです。
これについては、はっきりと定まった判断基準というものはなく、就業規則の変更内容などを個別的、具体的に事実関係に沿って判断するしかありません。
実際の裁判例
秋北バス事件以降に示された裁判例をあげると次のようなものがあります。
合理性が認められたもの
定年制
- 定年制の新たな適用について、もともとあった権利を侵害しないということが明らかであり、人事の刷新・経営の改善など会社の組織や運営の適正化のためであって、一般的に不合理な制度をはいえないことなどを理由に非合理なものとはいえないとした(秋北バス事件)
- 55歳定年制が60歳へ延長され、従前の定年後在職制度(実質58歳定年制)において支給されることとなっていた賃金等の減額という労働条件の変更について、法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容であるとした(第四銀行定年制度事件)
退職金
- 農協の合併にともない、退職金の支給倍率を低下させたものについて、給与額が通常の昇給分をこえて相当な程度増額され、退職金額としてはそれほど低下していないことなどを理由として合理性があるとした(大曲市農協事件)
生理休暇
- 生理休暇について年間24日を有給と定めていたものを月2日を限度とし、1日につき基本給の68%を補償するとしたものについて、実際に不利益が生ずるのはかなり例外的な場合にかぎられ、休暇の取得が誠実に行われるかぎり実際上の不利益はわずかであること、休暇をとった場合にも出勤率加給、賞与の算定にあたって欠勤などとはみなされない取扱いであることを理由として十分な合理性を備えているとした(タケダシステム事件)
勤務管理
- 労働時間の起算点をタイムカードの打刻から面着制(作業できる状態になって現場に到着した時点からが労働時間の開始だとするもの)に変更したものについて、大多数を組合員とする組合との合意を得たうえで実施に移され、原告組合員を除く他の従業員は異議なくこれに服していること、新制度によって原告らが受ける不利益はほとんど取るに足りないものといってよいことなどから変更の効力を認めた(石川島播磨東二工場事件)
労働時間の短縮
- 週休2日制の導入に伴い、特定日の所定労働時間を60分、それ以外の平日を10分間延長するなどの就業規則の変更は、年間の所定労働時間が減少して時間当たりの基本賃金額が増加し、連続した休日の日数も増加し、さらに、金融機関の競争力を維持するための必要性が認められることから、行員らに生ずる不利益は全体的、実質的に見た場合必ずしも大きいものではなく、法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のもであるとした(羽後銀行(北陸銀行)事件)
合理性が認められなかったもの
定年制
- 運送会社で新たに設けた定年制について、必ずしも不当とはいえない事情は認めつつ、この定年制が労働組合対策の一環として設けられたものである以上、合理性がないとした(丸大運送店事件)
退職金
- 退職金の算定基礎額を基準賃金総額から基本給額に変更したものについて、既往の労働の対償である賃金について使用者の一方的な減額を肯定するに等しい結果を招くので、たとえ使用者に経営不振の事情があるにしても、とうてい合理的なものとはいえないとした(工学院大学事件)
- 一定期日以降の就労時間を退職金算定の勤続年数に算入しないとした変更について、これは同期日以降の不利益を一方的に課すものであるにもかかわらず、会社側はその代償となる労働条件を何ら提供していないことから合理的なものはといえないとした(御国ハイヤー事件)
賃金
- 経営体質の改善などのため、60歳定年制の下で55歳以上の管理職階の行員を専任職階とし、賃金、賞与を大幅に削減するという内容の就業規則の変更は、高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであり、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性にもとづいた合理的な内容のものであるということはできないとした。(みちのく銀行事件)
就業規則の効力発生はいつ?
就業規則の作成・届出義務
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則を作成し所轄労働基準監督署に届け出をしなければならないと定めています。
この「常時10人以上」は、時として10人未満になる場合もあるが、常態としては10人以上の労働者を使用している場合をいいます。「10人以上の労働者」には、正社員のみでなく、パートタイマーやアルバイトも含まれます。派遣社員については、派遣元での人数にカウントするため派遣先では人数にカウントしません。
また、各事業場において就業規則の作成、届出義務があります。支店、営業所等の各事業場で常時10人以上の労働者がいる場合は各事業場で作成、届出を行います。
例えばA支店が8人、B営業所が5人の場合は、どうでしょうか?
それぞれ独立した事業所とみられるときには、それぞれ10人未満の労働者しか使用していませんから就業規則を作成、届出する義務はないと考えられます。
しかし、営業所が支店との組織的な関連や事務処理能力など考えあわせて、1つの事業所として独立性がない場合は、上位組織の支店と一括して1つの事業所とみることになります。その場合は両方を合計すれば10人以上になりますので、支店と営業所を一括して就業規則を作成、届出する必要があります。
届出をする時には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、または労働者の過半数を代表する者の意見書を添付する必要があります。労働者が就業規則の内容に否定的なことを意見書に記載していてもその就業規則は有効なものとなります。
10人未満の労働者を使用する場合
常時10人未満の労働者を使用する使用者は法律上就業規則の作成義務はありませんが、以下の理由で作成しておいた方が良いと考えます。
- 社内になんとなくあるルールや暗黙の了解を明確にするため
- 無駄な手続きを省くため
- 労使トラブルを防止するため
- 問題社員に対処するため
- 会社のカラーを明確にするため
- 社内で働く人に安心感を与えるため
就業規則の効力の発生
就業規則の効力の発生する時期はいつか?という問題ですが
就業規則を作成する手続きですが、1.就業規則の作成、2.労働者代表の意見聴取、3.労働基準監督署長への届出、労働者への周知という流れです。
これらのどの段階で効力が発生するかですが、最高裁は労働者に何らかの方法で周知された段階で、はじめて効力が発生するという考え方を取っています。(フジ興産事件)
罰則
使用者が就業規則の作成、届出をしなかった場合には30万円以下の罰金となります。
就業規則作成の作成・届出は
就業規則の作成及び届出の義務
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
- 又就業規則を変更した場合も同様です。
- 「10人以上の労働者」には、正社員以外のパートタイマー等も含みます。
- 就業規則は法令等に反してはなりません。
- これに違反した場合は、30万円以下の罰金となります。
就業規則に必ず規定しなければならない事項
労働基準法で決まっている、就業規則に必ず規定しなければいけない事項は、次の通りです。
- 労働時間に関する事項(始業・終業時刻、休日、休暇等)
- 賃金の決定・計算・支払いの方法・支払いの時期、昇給に関する事項
- 退社に関する事項(解雇の事由を含む)
定めがある場合に規定しなければならない事項
社内でルールがある場合に規定しなければいけない事項は、次の通りです。
- 退社手当
- 退職手当以外の臨時の賃金等、賞与、最低賃金
- 労働者に負担させる食費・作業用品
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償
- 表彰・制裁
- 前号各号のほか、事業所の労働者の全てに適用される事項
最低限これだけの事項を就業規則に規定しなければなりません。
就業規則の構成
だいたい就業規則は以下のような構成になっています。
- 総則
- 採用・移動
- 服務規律
- 労働時間・休憩・休日
- 休暇等
- 賃金
- 定年・退職及び解雇
- 表彰及び懲戒
就業規則の作成の手続き
- 就業規則を作成、または変更したときは、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません。
- 使用者は、労働者の過半数を代表する者の選出に関与してはなりません。推薦や投票などの民主的な方法で、代表者を選出しなければなりません。
- 意見を聴けば良いだけで、同意までは必要ありませんが、会社の運営上支障が出ないように対処してください。
- 意見を記した書面を就業規則に添付して、届出書と一緒に、労働基準監督署へ2部提出します。
- 労働基準監督署で、一部を提出し、もう一部に受付印を押してもらって、持ち帰ります。
- その際には、労働基準監督署の職員が中身を全て確認することはなく、ざっと見る程度です。一応後で、確認はするそうです。