ski経営サポートオフィスの社労士コラム
就業規則を従業員に不利益に変更する場合
2013.11.16
就業規則の不利益変更
就業規則は、使用者側が作成したり変更するものであることから、労働条件について従業員側に不利な変更をした場合は、その効力が問題となります。
労働基準法には就業規則の変更により労働条件が低下する場合についての記載は特になく、この問題について裁判例によっても見解が分かれています。
最高裁は、就業規則の変更に関して次のような考え方を示しています。
「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」(秋北バス事件)
この判決は、就業規則の条項が合理的なものである限り、労働条件に不利益な条項を設けても有効に適用されるという考え方を示したものです。
問題は「何が合理的なのか」ということです。
これについては、はっきりと定まった判断基準というものはなく、就業規則の変更内容などを個別的、具体的に事実関係に沿って判断するしかありません。
実際の裁判例
秋北バス事件以降に示された裁判例をあげると次のようなものがあります。
合理性が認められたもの
定年制
- 定年制の新たな適用について、もともとあった権利を侵害しないということが明らかであり、人事の刷新・経営の改善など会社の組織や運営の適正化のためであって、一般的に不合理な制度をはいえないことなどを理由に非合理なものとはいえないとした(秋北バス事件)
- 55歳定年制が60歳へ延長され、従前の定年後在職制度(実質58歳定年制)において支給されることとなっていた賃金等の減額という労働条件の変更について、法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容であるとした(第四銀行定年制度事件)
退職金
- 農協の合併にともない、退職金の支給倍率を低下させたものについて、給与額が通常の昇給分をこえて相当な程度増額され、退職金額としてはそれほど低下していないことなどを理由として合理性があるとした(大曲市農協事件)
生理休暇
- 生理休暇について年間24日を有給と定めていたものを月2日を限度とし、1日につき基本給の68%を補償するとしたものについて、実際に不利益が生ずるのはかなり例外的な場合にかぎられ、休暇の取得が誠実に行われるかぎり実際上の不利益はわずかであること、休暇をとった場合にも出勤率加給、賞与の算定にあたって欠勤などとはみなされない取扱いであることを理由として十分な合理性を備えているとした(タケダシステム事件)
勤務管理
- 労働時間の起算点をタイムカードの打刻から面着制(作業できる状態になって現場に到着した時点からが労働時間の開始だとするもの)に変更したものについて、大多数を組合員とする組合との合意を得たうえで実施に移され、原告組合員を除く他の従業員は異議なくこれに服していること、新制度によって原告らが受ける不利益はほとんど取るに足りないものといってよいことなどから変更の効力を認めた(石川島播磨東二工場事件)
労働時間の短縮
- 週休2日制の導入に伴い、特定日の所定労働時間を60分、それ以外の平日を10分間延長するなどの就業規則の変更は、年間の所定労働時間が減少して時間当たりの基本賃金額が増加し、連続した休日の日数も増加し、さらに、金融機関の競争力を維持するための必要性が認められることから、行員らに生ずる不利益は全体的、実質的に見た場合必ずしも大きいものではなく、法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のもであるとした(羽後銀行(北陸銀行)事件)
合理性が認められなかったもの
定年制
- 運送会社で新たに設けた定年制について、必ずしも不当とはいえない事情は認めつつ、この定年制が労働組合対策の一環として設けられたものである以上、合理性がないとした(丸大運送店事件)
退職金
- 退職金の算定基礎額を基準賃金総額から基本給額に変更したものについて、既往の労働の対償である賃金について使用者の一方的な減額を肯定するに等しい結果を招くので、たとえ使用者に経営不振の事情があるにしても、とうてい合理的なものとはいえないとした(工学院大学事件)
- 一定期日以降の就労時間を退職金算定の勤続年数に算入しないとした変更について、これは同期日以降の不利益を一方的に課すものであるにもかかわらず、会社側はその代償となる労働条件を何ら提供していないことから合理的なものはといえないとした(御国ハイヤー事件)
賃金
- 経営体質の改善などのため、60歳定年制の下で55歳以上の管理職階の行員を専任職階とし、賃金、賞与を大幅に削減するという内容の就業規則の変更は、高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであり、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性にもとづいた合理的な内容のものであるということはできないとした。(みちのく銀行事件)